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VOL16 :1,5-アンヒドログルシトールの機能性および利用に関する研究

食・健康科学講座 教授 小西 洋太郎

(1)はじめに
 私たちの食生活において、糖質はエネルギー源として、また甘味料として欠かせないものである。ショ糖はその代表的な糖質であるが、昨今の健康志向や生活習慣病予防対策により、エネルギー面だけでなく、すでに開発されているフラクトオリゴ糖、L-アラビノース、トレハロースのように生理機能を有する糖質に注目が集っている。
  1,5-アンヒドログルシトール(AG, 1-デオキシグルコース)はグルコースのC1位における還元体であり、環内にエーテル結合を有する化学的に安定なポリオールである。AGは、澱粉・グリコーゲンのα-1,4-グルカンリアーゼ系分解経路の最終代謝産物として、低濃度(10-100 mg/100g)であるが、自然界に広く分布している。糖尿病患者では血中AGレベルが低下するので、糖尿病の診断の指標となっており、AG測定キットも市販されている。
  しかし、これまでAG大量に入手することができなかったので、物理化学的性質や機能性に関する研究、特に食品科学、栄養科学の立場からのアプローチはなされていない。本研究は、先述のようにAGはグルコースと構造的に類似しているので、その甘味度を知りたいということから始まった。
  そこで、私たちはAG源となる材料を探索してきた。その結果、「加味帰碑湯」や「人参養栄湯」などの漢方薬に用いられる、オンジ(Polygala tenuifolia、イトヒメハギ科植物)の根に高濃度のAGが含まれることを知り、大量調製を行った。


(2)AGの調製
 オンジ(乾燥物)の5%TCA抽出液を AG 50W-X8とAG1-X8(BioRad)の2層からなるカラム(1.3 x 29 cm)に負荷し、水で溶出させた。ラナ1,5-AGキット(日本化薬)で検出される画分を集め、再クロマトグラフィを行い、最終的に白色粉末(収率5.5±0.6%)を得た。得られた精製物標品の分子量は164(Negative ion FAB-MS)であった。また、1H-NMR、 13C-NMRによる解析、さらに、比旋光度([α]D25=+66°)が標準物質(和光純薬AG)と一致したことから、精製標品が1,5-アンヒドロ-D-グルシトールであることが確認された。


(3)AGの甘味度および甘味特性
 官能検査において、閾値で比較した場合のAGの甘味度は39(スクロース甘味度を100とする)であった。また、相対甘味度(5%AG水溶液と3%スクロース水溶液は同程度の甘味)は60であった。
  味覚センサーSA402B [(株)インテリジェントテクノロジー]を用いた結果ではAGの甘味度は75であった。次に、紅茶に4%スクロースまたは4%AGを添加し、味覚センサーでそれらの応答を調べた。スクロース添加に比べ、AG添加で苦味および渋味は有意に低下した。逆に塩味は増加した。一方、甘味度はスクロースよりも弱いにもかかわらず、紅茶に入れた場合の甘味はスクロースと同等であった。AGを甘味料として使用する場合を考えると、これらの結果は興味深い。


(4)消化管における澱粉消化に及ぼす影響
 AGのラットにおける澱粉の消化吸収に及ぼす影響を調べた。24時間絶食させたラット(体重約80g)に、澱粉(100mg)、澱粉(100mg+AG30mg)、AG(30mg)を胃ゾンデで投与した。投与後2時間まで経時的に尾静脈より採血し、血中グルコースおよび血中AG 値の経時的変化を調べた。その結果、AG投与による血糖値の変化はみられず、消化管内における澱粉の消化吸収とAGの吸収とは互いに干渉しないことが示唆された。


(5)AGの体内動態
 24時間絶食させたラット(体重約80g)に、AG(30mg)を胃ゾンデで投与した後、絶食群と摂食群とに分け、3〜9時間後の肝臓,腎臓,骨格筋(内股筋)および大脳のAG濃度を測定した。その結果、摂食群の肝臓以外の各臓器において、AGレベルが有意に低いことが観察された。すなわち,摂食群は絶食群と比べ血中グルコースレベルが高く,そのことがAGの各臓器への取り込みを抑制しているのではないかと推察された。


(6)AGからAFへの酵素的変換
 1,5-アンヒドロフルクトース(AF)は強い抗酸化活性、抗菌活性、抗炎症、抗がん作用を示す機能性糖である。欧州や日本のある企業ではα-1,4-グルカンリアーゼを用いて澱粉からAFの製造法を開発している。しかしこの方法では、特殊な紅藻類からα-1,4-グルカンリアーゼを精製しなければならない。私たちはこの反応とは別の反応、すなわち市販のピラノースオキシダーゼを用いてAGからAFへの変換法(下図)を検討し、最適条件(変換率90%)を見いだした。現在AGとAFの分別・分取について検討中である。


(7)おわりに
 AGの発見は遠く1888年にさかのぼる。しかし、食品科学,栄養科学の立場からのAGの研究は全くなかった。本研究は継続中であるが、本研究の目指すところは以下のとおりである。(1)AGの甘味度や甘味特性の解明によって新しい甘味料として位置づけること。(2)動物実験で得られるAGの体内動態(消化管における吸収率、尿中排泄量、血中濃度など)の知見から,将来AGのエネルギー換算係数の決定のための基礎データを得ること。さらに、(3)AGの利用拡大として,抗褐変活性,抗酸化活性,抗菌活性,抗う蝕活性,抗腫瘍活性など様々な機能性を有することが知られている1,5-アンヒドロフルクトース(AF)を市販のピラノースオキシダーゼを用いて調製すること。
  本研究成果の一部は,2011年度日本応用糖質科学会近畿支部大会(6月)および本大会(9月)で発表した。最後に、本研究は「2010年度生活科学研究助成金」を受けた。お礼申し上げます。


(2011.11.09)


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