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VOL13 : 環境負荷低減のための太陽・空・環境測定と気象モデルの提案


生活科学研究科・生活科学部 教授 井川 憲男

1.太陽放射に起因する各種気象データに関する測定所の建設
写真1 2004年頃の生活科学部A棟屋上
写真2 2006年1月1日に測定を開始した
太陽放射昼光測定システム
 自然エネルギーを有効に活用し、有限な化石資源の節減を図ることが時代の必須の要請とされています。建物内部空間の環境構成を合理的に構成するには、たとえば、自然光と人工光を併用する照明の省エネルギーを図ったり、精緻な日射量の予測に基づいた冷暖房の熱負荷予測を行ったりする必要があります。さらに、太陽電池などの太陽エネルギー利用技術が普及しようとしています。
 このような技術を進展させるには、建物環境設計の基礎となる気象データを測定し、適切なモデルを構築する必要があります。このためには、気象測定システムが必要です。気象測定は、特別な実験室がなくても、とりあえず建物の屋上が使えれば実施することができます。2005年頃に、気象測定による基礎データ収集を計画しました。当時、生活科学部A棟の屋上には、写真1のような金属フレームに使われなくなったセンサーが載っていたので、このフレームを活用して測定台にしようと考えました。
 測定台に載せるべきセンサー類の配置を考えてC型鋼を取り付け、写真2のような測定システムを完成させました。この測定システムは、太陽放射に起因する日射量や照度に加えて、天空輝度・放射輝度分布、気温、湿度、風向・風速、降水量など多くの測定項目を包含し、関連分野においては世界でも有数の測定所を完成させることができたと思います。
 2006年1月1日0:00から1分間隔の連続測定を開始し、2006年10月29日から10秒間隔で昼夜測定を継続しています。測定データは、フランス、イタリア、スロバキアなどの同種測定所とのデータ交換も実施しています。国内では、秋田県立大学、首都大学東京、鹿児島大学と共通測定項目を定め、データの交換も行っています。交換した各地のデータは、地域性に依存しない汎用的なモデルの検証に有用です。
 順調な気象測定を続けていましたが、老朽化した屋上防水の改修工事が2009年1月から3月までの間に実施されることになりました。このため、屋上の測定システムを一時撤去する必要が生じ、再設置の機会に測定システムの大幅な増強を図ることにしました。
 センサーとしての日射計や照度計については、複数のメーカーの異なったグレードのものも設置してその性能評価も可能になりました。グレードの高いセンサーは高価なため、気軽に購入することは難しいことがありますが、低価格で信頼できるセンサーを選択することに有用なデータとなります。測定台も最長6mと大きくして多種のセンサーを載せることができるようにしました。写真5が2009年4月から連続測定を開始した新しい測定システムです。

写真3 2009年4月に増強されて測定を再開した太陽放射昼光測定システム


2.測定データによる各種モデルの評価と新しいモデルの研究
2.1 日射量から昼光照度を推定するモデルの提案と評価

  一般に、気象台などでは日射量は測定していますが、照度は測定していません。そのため、自然光の利用技術を検討するとき、基礎資料となる照度のデータを入手することが出来ません。このため、日射量から照度を推定する方法(日射の発光効率モデル)が各種提案されています。測定所で取得したデータや交換した国内外のデータを基にして、これまでに提案していた発光効率モデルや他のモデルについて詳細に比較しました。
 図1はこの測定所で測定した全天日射量、天空日射量、法線直達日射量から推定した全天照度、天空照度、直射照度を測定した全天照度、天空照度、直射照度と比較した例です。日射量から推定した照度は、実測した照度と非常に良く一致しており、日射量のデータが入手できれば、これを変換して高精度の照度のデータを得ることが出来ます。

図1 日射量から推定した照度と測定した照度の関係

2.2 天空輝度分布と天空放射輝度分布の提案

 通常の生活の中では、日当たりが良いとか、太陽が燦燦・・、など、太陽については明るいイメージとともに、直射日光に視点が行っていることが多いと思います。
 図2は2007年の、月ごとの全天日射量の合計に対する天空日射量の合計を比で表したものです。水平面の全天日射量(水平面直達日射量と水平面天空日射量の和)に対して水平面天空日射量が半分以上あることを示しています。すなわち、水平面に到達する日射の半分以上が天空日射(拡散日射)で、直達日射が以外に小さいことに気付くと思います。この比は日射量に比べて照度の方が大きいことも表しています。これは、直達日射と天空日射を比較すると、単位エネルギー量当たりでは、天空日射の方が明るいことを示しています。
 これらのことから、日射の直達成分だけでなく、天空成分(天空日射量や全天空照度)にも十分な配慮が必要ということになります。

図2 日射量と照度の全天成分に対する天空成分の比

 天空(空)の熱放射(放射輝度)や明るさ(輝度)は、空全体が一様ではありません。天候状態と太陽の位置に依存して、空の位置により異なった放射輝度や輝度の分布になります。このような分布を天空放射輝度分布ならびに天空輝度分布と称していますが、この分布は様々に変化します。
 天気のよいときの空(晴天空)は、太陽付近の空の輝度がもっとも大きく、太陽から離れるほど輝度が低下し、約90度程度離れた位置の輝度が最小になり、地平線付近になるとやや高くなる傾向があります
 一面が雲に覆われたときの空は、真上の空(天頂)の輝度が最も高く、空の高度が下がっていくほど輝度が徐々に低下し、地平線付近は天頂に比べて33%程度の輝度になります。
 このような空の性状を表す数式モデルとして、天空放射輝度分布を表すAll sky Model-Rと天空輝度分布を表すAll Sky Model-Rを開発・提案しています。両モデルにより天候状態別に表した天空放射輝度分布を図3に、天空輝度分布を図4に示します。図では、横軸が全天成分(天空+水平面直達)の大小を、縦軸が直達成分の大小を表しています。したがって、図の左上は直射光がなくて暗い状態(曇天空)を、右下は直射光が盛大で雲ひとつない澄み切った青空の状態(晴天空)を表しています。図中の円形の図は、空の放射輝度と輝度を水平面に投影したものです。図3は、黄色は熱放射が大きく、オレンジは熱放射が小さいことを、図4は、白が明るく、青が暗いことを表しています。
 このように、天候状態により状態は様々に変移します。これらを室内環境の計画や設計に反映させ、環境負荷が小さく快適な、より良い建物の実現に結びつけることが必要です。
 このためには、これまでに提案したモデルについても、実測データを基に詳細に評価するとともに、より高精度な推定モデルとなるよう改良を重ねています。

図3 All Sky Model-Rによる天空放射輝度分布の例
(熱放射分布:太陽高度35°の場合)


図4 All Sky Model-Rによる天空輝度分布の例
(明るさ分布:太陽高度35°の場合)
 

(2010.02.16)

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